●「先生、ワシ、ビールやめるつもりないから!」
病院の新米栄養士だった頃、私が出会った患者さんが言った一言。
今だに忘れられません。
私は、何も話してないのに、この患者さんは、「栄養指導=怒られる、指導される」と思われていたんでしょう。
この経験が、私が人の心について知りたい!と思ったきっかけの一つです。
この病気にはどんな栄養が必要か、この食品には、どんな栄養素が豊富に含まれているか、カロリーはどのくらいか。私は、管理栄養士の資格をとるために、食に関する情報や知識を学んできました。でも「オレ、やめる気ないから!」と言われた時に、どう言えばいいのか、教えてもらった記憶はありません。
「あ~、そうなんですか…(苦笑)」新米栄養士の私は、かなり困った顔をしていたと思います。
そして、ヘルスカウンセリング学会で、カウンセリングを学びました。そして、相手の気持ちに焦点を当てて話が聞くように心がけました。
すると、どうなったかというと…
あれだけご立腹だった患者さんが、『実は今、会社でちょっといろいろあってな…』と本音を話してくれるようになったり、自ら休肝日を作るようになったりと、いい変化が現れました。私は、食の正しい情報も、相手の気持ち一つで伝わったり伝わらなかったりするんだということを、身をもって経験しました。
想像してみてください。
大好きなカフェで、大好きなパンケーキを食べようとしたら、「〇〇さん、それカロリーすごい高いよ。バターと生クリームたっぷりだから、全部食べたら太るよ。こっちのメニューに変えた方がいいじゃない?」
と言われたら、どんな気持ちがしますか?
『人のことなんかほっといてよ!!(怒)』と思いませんか?
例えてみたら、一方的な栄養指導というのは、こんな感じだと思うんです。
でも、「そのパンケーキ美味しいよね~。私も好き!〇〇さんは、どこのパンケーキが一番好きなの?」と聞かれたら、どうでしょう。
「そうやね~、△△のが一番おいしいよね~。ふんわり感がたまらなくて、しっとりしてておいしいから、月3回は行くのよね~」と気持ちよく話しているうちに、もしかしたら「パンケーキばかり食べてるからか、実はちょっと体重が増えてきて、ダイエットしなきゃと思っていてね。下腹が出てきたからさすがにまずいよねぇ~。何かいい方法ないかしら?」という本音が、ぽろっと出てくるかもしれません。
人に気持ちを分かってもらえると、その奥に隠れた本音が出てくることがあります。本音に気が付かなければ、どういう行動を起こしたらいいか、分からないことがあります。
『パンケーキを止めなさい』と言われたら反発するけど、『実は下腹が出てきてまずい…』というところに焦点があたると、これからのメニュー選びも変わるかも知れません。食べる回数が変わるかも知れません。
そのくらい、人の気持ちは、食べるという行動と密接な関係にあるんですよ。